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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)294号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第四号証(手続補正書)中の補正明細書(以下、「本願明細書」という。)によれば、本願発明の特許請求の範囲は、請求の原因二記載のとおりと認められる。

また、本願明細書、右甲第四号証添付の第1a図、第1b図、第2図、第3a図、及び成立に争いない甲第二号証(特許願書)添付の第3b図、第4図ないし第6図によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる(別紙図面参照)。

(一) 本願発明の技術的課題(目的)

本願発明は、ピツチ軸(=スピン軸)と並行に角運動量バイアスが与えられた軌道周回人工衛星の姿勢制御装置に関するものであり、特に、閉ループ・サーボ制御系によつて、地球磁場と相互に作用して前記人工衛星のロール軸を中心とする回転を生じさせる制御トルクを発生させて、ロール軸及びヨー軸を中心とする姿勢のずれを修正することができる姿勢制御装置に関するものである(第二頁第一五行ないし第三頁第二行)。

周知技術である開ループ制御方式に伴う問題は、人工衛星の位置に対して地球の磁場が適切な位置関係をとる軌道部分に人工衛星が在るときに、修正指令信号を働かせることにある。与えられた姿勢誤差を修正するために、適切な磁気トルクを働かせるためには、トルク付与装置によつて与えられる制御トルクの位相が、地球の磁場極性と同相である必要がある。これまで、このような磁気トルク付与動作を行わせるための方法は、制御ループ中に地上局の指令を必要とした。このような開ループ制御方式の不利な点は、制御ループを構成する要素の一つである地上局において、人工衛星からの信号を解読し、適切かつタイムリイな指令信号を与えなければならないにもかかわらず、地上局員による修正動作に遅れが存在することである。この遅れによつて、もし人工衛星が地球磁場内の正しい位置をとつたときにはしばしば行い得るような良好な姿勢修正を得ることが困難となる可能性がある。また、姿勢修正に従事する局員を持つ地上局の運営費用も、開ループ制御方式にとつて不利な点である(第四頁第一八行ないし第五頁第一八行)。

本願発明は、右のような従来技術の問題点を解決するために創案されたものである。

(二) 本願発明の構成

(1) 本願発明による軌道周回人工衛星の姿勢制御装置は、例えば別紙第1a図のピツチ軸3と並行に角運動量ベクトルHが与えられており、その角運動量ベクトルが、軌道面に対する法線と一致するように維持されるべき人工衛星の姿勢を制御するものである。そして、本願発明による軌道周回人工衛星は、選ばれた所望の姿勢からの、該人工衛星のロール軸2を中心とする姿勢のずれ、及び選ばれた所望の姿勢からの、該人工衛星のヨー軸1を中心とする姿勢のずれの、双方を修正することができる、自動閉ループ・サーボ制御系(第2図の54ないし59)を有している。ここで、人工衛星が、前記の所望の姿勢にあるときは、前記ロール軸2は人工衛星の軌道速度ベクトル23aと一致し、ヨー軸1は基準鉛直線となる地方鉛直線(local vertical:以下「基準鉛直線」という。)22aと一致している(第五頁第一九行ないし第六頁第一六行)。

前記自動閉ループ・サーボ制御系は、ロール誤差感知回路(第2図の22、24ないし50、51)からの信号を受信し、前記ロール誤差感知回路は、前記選ばれた所望の姿勢からの前記ロール軸2を中心とする人工衛星の地球に対する角度のずれを表す誤差信号52を発生する。また、前記自動閉ループ・サーボ制御系は、地球磁場78と相互に作用して、該人工衛星の前記ロール軸2を中心とする回転を与える制御トルク80を発生させる磁気ダイポールを発生させるための、磁気トルク発生器94を具備している。さらに、本願発明の人工衛星の制御装置は、ヨー軸1を所望の基準鉛直線22aに向かうようにするために、前記の角ロール誤差のみから成る誤差信号に応答して、前記磁気トルク発生器94を付勢する付勢回路(54、58、59等)を具備している(第六頁第一七行ないし第七頁第一三行)。

第1a図において、10は宇宙船あるいは人工衛星のようなものである。質量の中心から、三本の互いに直交する軸1、2及び3が伸びており、これらは、それぞれいわゆるヨー(yaw)軸、ロール(roll)軸及びピツチ(pitch)軸に対応する(第七頁第一六行ないし第八頁第一行)。

角運動量を持つて軌道を回る人工衛星は、第2図に示すように、地上局からの制御指令を必要としない閉ループ・サーボ系制御系内の、通常のトルク付与装置94、感知器22、24、及び両者の間を結合する電子回路を含む、本願発明による自動制御手段を用いて、角運動量ベクトルH(第1図)で定義される方向が、軌道法線と一線になるように向きを制御することができる(第九頁第一八行ないし第一〇頁第五行)。

第1b図において、θpは、人工衛星のピツチ誤差であり、ピツチ軸3と基準鉛直線22aで形成される平面とヨー軸との間の角と定義される。φは、人工衛星のロール角であり、軌道に対する法線24aと速度ベクトル23aで形成される平面と、ピツチ軸との間の角と定義される。ψは、人工衛星のヨー角であり、ピツチ軸3と基準鉛直線22aで形成される平面と、軌道法線24aとの間の角と定義される(第一一頁第六行ないし第一四行)。

スピンによつて方向が定められる人工衛星は、慣性空間(見掛けの相対的位置が変らない恒星を基準とする標準座標)に関して、一定の姿勢を保つて地球を中心とする軌道を周回するから、軌道を周回する間に、1/4周回ごとに、ロール誤差とヨー誤差とが正弦曲線的に相互に交替する。したがつて、地球から方向を与えられる人工衛星にとつて最も測定困難な直接的ヨー測定をしないでも、ピツチ軸の位置を独自に決定できる。本願発明は、ロール誤差を、以下に述べるように、閉ループ・サーボ制御系の制御入力パラメータとして利用する(第一二頁第一行ないし第一二行)。

(2) 感知器回路及び閉ループ・ロール制御の構成

第2図は、本願発明を示す目的で選ばれた閉ループ・サーボ制御回路のブロツク線図である。人工衛星10の運動量輪(フライホイール)14上に適当に設けられた一対の感知器22、24は、運動量輪14上に在つて、回転による走査ごとに地球の表面を見るように、赤外線の範囲に在る光エネルギーに応答する方向を向いている(第一二頁第一三行ないし第一九行)。

感知器22、24からの信号出力は、前置増幅器26、28によつて増幅されて、波形30、32となり、これらが、一対のしきい検出器34、36に与えられる。しきい検出器34、36で発生される出力信号が、波形38、40で示されている。信号38、40が地球時(earth time)検出器42、44に与えられる。地球時検出器42、44は、それぞれの感知器が地球を見ている時間を決定する。任意の適当な積分器又は計数器が、この機能を果たす。この地球を見ている時間を表す信号は、それぞれの検出器42、44の出力部に形成されるパルス46、48によつて表される。パルス46、48が、誤差検出器50を備える論理検出器回路に与えられる。これによつて、感知器22と24の出力信号の差から、ロール誤差を表すパルス52が発生される(第一三頁第六行ないし第二〇行)。

姿勢感知器は、この分野で周知の任意の適当な方法で配置することができる(第一四頁第一行及び第二行)。

運動量輪に取り付けられた第一感知器と第二感知器の軸は、第3a図に示されるように、円錐114と116を描く。第3b図の点118は、地球表面上への人工衛星の投影であつて、天底(nadir)Nと呼ばれる。ロール誤差が存在すると、各感知器による地球上の走査線110、112は、天底Nを中心として左右いずれかの方向にずれ、その線の長さは異なる。この走査線110と112の長さの差を検出することにより、ロール誤差が検出される(第一四頁第七行ないし第一八行)。

地球感知器22、24で検出される姿勢誤差は、ロール軸2と軌道法線24aで形成される平面と、角運動量ベクトルHとの間の角度φ(第1b図)を表している。第2図の波形52のパルス持続時間を測るために、在来の構成を持つ計数器54が設けられている。この計数値は、軌道法線24aに対する角運動量ベクトルHのずれの大きさに正比例する。時間差が零であるか、オーバフロー検出機58によつて決定される特定の限界内にあるとき、トルク付与装置94は、カツトオフ(cutt-off)又は消勢される。トルク付与装置94は、一般に、コイル又はループ状に巻回された電磁石から成る。オーバフロー検出器58は、在来の一定数のパルス数の度数計であつて、一杯になつたとき、論理回路59への入力の一つとなる一つの出力パルスを発生する。検出器50によつて誤差が決定されると、ピツチ軸3(第1a図、第1b図)に平行に並べられたトルク付与装置94が付勢されて、人工衛星が地球磁場の適当な領域内に在れば、所要のトルク発生のための磁束を働かせる。あらかじめ定められた最小値より誤差が大きければ、電磁石を流れる電流の向きは二つのパラメータによつて決定される。第一のパラメータは、誤差の向きであつて、これは、誤差感知器51によつて、どちらの感知器の出力が他方より先行するかを示し、これがロール誤差の向きを示す。誤差感知器51は、信号46と48を比較する適当な位相検波器として働き、信号46と48のどちらが先行するかを検出することにより、前記のロール誤差の向きを示す。第二のパラメータは、前記誤差が検出された軌道上の位置に関する。すなわち、人工衛星が後記第6図の領域74に在るとき、所定の方向のロール誤差が検出されると、例えば第6図の矢印80に示す制御トルク・ベクトル80が発生される。人工衛星が軌道上を進行して領域76に達するまでに、前記ロール誤差が修正されなければ、引続き姿勢制御操作を続けなければならないが、この場合は、人工衛星10は領域76に在るから、発生される制御トルク・ベクトルの方向を反転させなければならない。このため、人工衛星10が領域76に在るときは、地球磁場ベクトル78に対する人工衛星の速度ベクトルの方向は、人工衛星が領域74に在るときの速度ベクトルの方向と地球磁場ベクトル78の方向との関係と、逆になる。その結果、ロール誤差が零になる方向に、ロール軸を中心として人工衛星を回転させるための、局部発生磁束(ダイポール)の方向を逆転させる必要がある。このダイポールの方向(+あるいは-)は、クロツク90又は磁力計96から得られる情報、すなわち前記第二のパラメータに基づく情報によつて、決定される(第一四頁第一九行ないし第一七頁第一五行)。

第6図は、所要のロール誤差修正トルクを与えるのに十分な大きさの地球磁場が得られる、軌道72上の領域74、76を示している。これらの領域は、地球の赤道面の近傍にある。地球磁場ベクトル78は、軌道面内にあるロール軸の修正運動を生じさせるために発生される制御トルク・ベクトル80と、直交関係にある。逆向きの修正は、図に示されたベクトル80と逆向きの制御トルクによつて行われる。人工衛星がその軌道上を進むに従つて、例えば人工衛星は北極上を通過するとき、基準鉛直線に対する地球磁場の方向が変化するから、発生される制御トルク・ベクトル80の方向、特にロール誤差修正用制御トルク・ベクトルの主成分が、基準鉛直線に沿うか否かを判断する必要がある(第一七頁第一七行ないし第一八頁第一一行)。

人工衛星に搭載されている制御回路は、地球の磁場が受け入れ得る方向範囲内に在るかどうかを決定する。この磁場条件の決定は、人工衛星が地球の赤道又は軌道内にある既知の基準によつて規定される平面を交差するときリセツトされるように構成された計数器とクロツクを利用する方法、あるいは、人工衛星内に設けられた磁力計を利用する方法のうちの、いずれかで行うことができる。(第一八頁第一二行ないし第一九頁第六行)。このようにして決定された情報を用いて、いつトルク付与装置に付勢すべきかということと共に、前記のように所要のトルクが形成されるべき方向を決定できる(第一九頁第九行ないし第一二行)。

第4図に、一対の感知器22、24によつて発生された、代表的な一連の波形が示されている。波形30は第一感知器(第2図の22)によつて発生されたものであり、波形32は第二感知器(第2図の24)によつて発生されたものである。人工衛星のロール軸を中心とする誤差が0であれば、波形30、32の各不連続性33と37、35と39は同時に発生し、したがつて、波形30の不連続性33と35の間の時間と、波形32の不連続性37と39の時間は、等しくなる。ところが、ロール軸を中心とする誤差が存在すると、例えば第4図に示すように、波形30の不連続性33が波形32の不連続性37よりも先に現れ、波形30の不連続性33と35の間の時間(第一感知器22が地球を見る時間)が、波形32の不連続性37と39の間の時間(第二感知器24が地球を見る時間)と異なつてくる。存在するロール誤差の大きさを決定するために、前記の各「地球を見る時間」は、地球検出器42、44によつて測定され、その時間に相当する持続時間を持つた信号46、48が発生される。信号46と48の持続時間は、誤差検出器50によつて比較され、両信号の持続時間の差、したがつて、ロール軸を中心とする誤差の大きさに対応する長さを持つた信号52が発生される。誤差感知器51は、誤差の方向を表す信号を発生する。誤差検出器50からの信号は、計数器54を動作させて、クロツク56からのパルスを計数させ、ロール誤差が修正を要する大きさであるか否かを判別する。ロール誤差が修正を要する大きさであるときは、計数器54がオーバーフロー信号を発生し、このオーバーフロー信号はオーバーフロー検出器58によつて検出され、該オーバーフロー検出器58は、論理回路59に対して修正命令信号を供給する。論理回路59は、この修正命令差信号と、誤差感知器51から供給される誤差の方向を表す信号とを組み合わせて、トルク付与装置94に対して、+トルク又は-トルクを発生させるための、信号電流を供給する。トルク付与装置94によつて発生される磁気ダイポール又は磁束は、人工衛星のピツチ軸と整列した方向であり、この磁気ダイポール又は磁束と、地球磁場78との相互作用により、ロール誤差を減少させるための基準鉛直線方向の制御トルクを発生させる。次の表は、赤道面に対して84°傾斜した二〇〇海里(約三七〇km)の軌道上における人工衛星に対する、本願発明による閉ループ・サーボ制御系の制御境界条件を要約して示したものである。

<省略>

*正の軌道法線に沿う運動量ベクトル82に対して(第6図)

ここに、β=真近点離角(昇交点に対し測定)

この表Iによつて、ロール軸の時計回りの回転を正とする、したがつて反時計回りの回転を負とする誤差とする場合に、ある+ロール誤差に対して、軌道が黄道面と交わる昇交点から測つて真近点離角の152°から208°の間に在る軌道部分について、負の磁束場を形成する電流を用いて、磁気ダイポールが励磁することが示されている。軌道の同じ部分における負のロール誤差の修正には、正の束場が必要である。332°から28°までの軌道角にあつては、正のロール誤差に対しては正のダイポール修正が、負の誤差に対しては負のダイポール修正が必要である。他の軌道に対する同様の制御法則は、この分野の専門家にとつて明らかなことである(第二〇頁二行ないし第二三頁第一二行)。

(3) 第5図は、ロール誤差あるいはヨー誤差があるときの、ピツチ軸のずれを示す図である。同心円62、64、66、68、70は、ロール誤差あるいはヨー誤差が存在するときに、ピツチ軸の延長線が、軌道面に平行な任意の子午線と交わる点の軌跡を示したもので、中心点を示す軌道法線60(紙面から突出する方向に在る。)を頂点とする円錐の底面の円周となる。そして、各同心円の半径距離は、前記軌道法線60とピツチ軸間のずれの角1°、2°…5°としてプロツトされている。ロール誤差は、軌道法線60と運動量ベクトルHとの間の角によつて定義され、このベクトルHは、章動(nutation)が存在しないと仮定したときのピツチ軸3と一致する。第5図中の曲線で示される軌跡は、四つの代表的な真近点離角の各々から、磁気トルク付与作用によつて、ロール誤差又はヨー誤差が修正されるときのピツチ軸の動きの経路を示している。例えば、姿勢誤差が完全な3°のロール誤差である位置<1>にあるとき、ロール誤差の修正に伴つてヨー誤差が現れ、姿勢修正に伴つて、ピツチ軸は曲線61、63を辿つて、軌道法線60に近付いて行く。ピツチ軸が軌道法線60に近付いて行くに従つて、ロールとヨーの双方の誤差が完全に除かれる。第5図において、位置<2>、<3>及び<4>から出発する曲線は、位置<1>から出発する誤差について述べたと同様に、それぞれの出発点で示される姿勢誤差の修正の間に辿る道筋である。出発位置<1>と<4>は、ピツチ軸60を中心として、この発明に従つて修正される最大ロール誤差を、また、出発位置<2>と<3>は、ピツチ軸60を中心として現れる最大ヨー誤差を表している(第二三頁第一三行ないし第二五頁第三行)。

(4) 人工衛星の姿勢制御に当たつて、ロール誤差の修正過程でヨー誤差が現れ、また、ヨー誤差の修正(実際には、衛星が軌道を1/4周回して、ヨー誤差がロール誤差になつたときに、誤差を検出し、修正する。)の過程でロール誤差が現れるが、その理由は、本願発明と関係がないので、説明を省略する(第二五頁第四行ないし第一〇行)。

(三) 本願発明の作用効果

本願発明の方式の利用は、円形軌道あるいは特定の傾度を持つ軌道にのみ限定されるものではない。高傾度軌道は、地球の極軸と軌道法線との間の角が大体直角であるものである。このような軌道によつて軌道を回る人工衛星は、地球の磁場の最も強い部分を通り抜ける。低傾度軌道によつて、人工衛星は、一般に地球の磁場が弱いが、しかしなお利用できる強さの磁場部分を通り抜ける。本質的な要求は、人工衛星が感知し得る強さの磁場部分を通り抜けるに十分な高度を持つ軌道であることだけである。この分野で知られている最も低い利用可能な軌道から、地球に同期した(geo―synchronous 地球の自転に同期し、地上から静止して見える)赤道面に一致する軌道まで、高度が増加する任意のものについて、本願発明に従つたロールとヨーの誤差修正のための磁気トルカ方式が利用できる。同期的低傾度軌道においては、本願発明による閉ループ・サーボ制御系は、軌道を回る期間全部を通じて、すなわち連続的に、利用できる(第二五頁第一二行ないし第二六頁第一二行)。

同期的低傾度軌道においては、本願発明による閉ループ・サーボ制御系は、軌道を回る期間全部を通じて連続的に利用できる。しかし、速度ベクトルに沿つてトルク作用をするダイポールを生成させるようにトルク付与装置の磁気ダイポールが方向付けされなければならない。このトルク作用ダイポールが、軌道面に直角な主磁場と作用し合う(第二六頁第一〇行ないし第一七行)。

2 取消事由1について

(一) 被告は、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第三六条第四項に規定する要件を満たしていないと主張する。

考えるに、願書に添付される明細書は、研究の成果としての発明の内容を正確かつ明瞭に第三者に公開し、特許権として主張すべき技術的範囲を明らかにする使命を有するのであるから、その発明の詳細な説明には、発明の対象を構成的に示して、当該発明の反復可能性を追試し得る技術内容を記載することが求められる。そうすると、特許法第三六条第四項にいう「容易にその実施をすることができる程度」とは、出願時の技術水準からみて、出願に係る発明の技術的手段を正確かつ具体的に理解できるばかりでなく、当該技術的手段を、特殊な知識を付加しなくとも、明細書の記載のみに基づいて再現できる程度をいうものと解すべきである。

そこで、前掲甲第二号証及び第四号証、すなわち本願明細書及び願書添付図面を検討すると、本願発明の一実施例の閉ループ・ロール制御方式のブロツク線図を示す別紙第2図において、一対の感知器22、24によりロール誤差を検出してから、トルク付与装置94を働かせて検出されたロール誤差を修正する過程は、本願明細書第一二頁第一三行ないし第二三頁第一二行(前記1(二)(2))に説明されているとおりであると認められる(その要旨は、取消事由2に関連して、後記3(二)の冒頭において述べる。)。そして、右ブロツク線図の構成要素である機器(感知器及びトルク付与装置)は、すべて、電子又は機械技術の分野において周知のものである。さらに、検出された誤差と、必要な修正トルクとの関係、修正トルクと制御トルクとの関係、及び制御トルクと発生させるべき磁気ダイポールとの関係も、本願優先権主張日前に、磁気的トルク発生手段利用技術において周知の基礎的事項であるから、本願発明を実施するに当たつては、対象とする人工衛星の重量や三軸回りの慣性モーメント等の物理的フアクターに応じた通常の計算と、別紙第2図の構成要素の配置取付けに関する通常の設計のほかには、特段の実験、計算あるいは設計上の工夫を必要としないというべきである。ちなみに、成立に争いのない甲第七号証によれば、右磁気的トルク発生手段を利用した人工衛星の姿勢制御方式、いわゆる磁気トルカ方式は、昭和四四年特許出願公告第二二七〇一号公報の第二欄第一五行ないし第一八行、及び第一〇欄第一七行ないし第一九行に記載されているように、本件優先権主張日前に、一つの技法として利用されているものであることが認められる。

被告は、「別紙第5図の<1>ないし<4>の軌跡の運動のために、いかなる時点に、どのような方向と大きさのトルクを加えるべきかについては、本願明細書には全く記載がない」旨主張する。

しかしながら、別紙第5図については、取消事由2に関連して後に詳しく述べるが、要するに同図は、別紙第2図に示す本願発明の実施例の装置が作動した場合の、軌道面に平行な平面に対する人工衛星のピツチ軸の投影を示す図にすぎないことが明らかであるから、仮に第5図が存在しないとしても、本願明細書及び別紙第5図以外の願書添付図面全体の記載に徴して、当業者は、本願発明を理解してこれを容易に実施し得るものと認められる。したがつて、別紙第5図に例示されている人工衛星のピツチ軸の<1>ないし<4>の軌跡と関係を持たせて、トルクの印加時点、方向及び大きさが記載されていないことをもつて、本願明細書の記載が特許法第三六条第四項の規定に違反するとはいえない。

なお、本願発明の現実の動作、すなわち誤差修正過程は、前記のとおり、本願明細書第一二頁第一三行ないし第二三頁第一二行、及び別紙第2図、第3a図、第3b図、第4図及び第6図に記載されているとおりと認められる。そして、修正トルクの大きさは、トルク付与装置94が発生する磁気ダイポールの強さ(磁束量)に比例するのであるから、従来の磁気的トルク発生手段を利用する人工衛星の姿勢制御技術における基礎的知識に立脚して、発生させるべき磁気ダイポールの強さを適切に選定すれば、所望の大きさの修正トルクを得ることができることは明らかである。

以上のとおりであるから、修正トルクの印加時点、方向及び大きさは、本願明細書の記載に基づいて、当業者が開発ないし設計に際して、随意に取り扱うことができる事項というべきである。

(二) また、被告は、「拒絶理由が適示したロール誤差の大きさと姿勢偏差修正のために必要なトルク量とを媒介する諸条件は、例えば別紙第5図の四つの軌跡で示される動作、すなわち本願発明の目的を達成する現実のプロセスを再現するための必須条件であり、その開示を欠いた本願明細書及び願書添付図面の記載を、発明を容易に実施し得る程度の記載と認めることは到底できない。」と主張する。

そこで検討すると、拒絶理由が例示する「ロール誤差の大きさと姿勢偏差修正のために必要なトルク量とを媒介する諸条件」は、(イ)衛星の重心回りの運動方式、(ロ)閉ループロール制御の回路要素、及び(ハ)与えるべきトルクを規定する条件であるが、(ロ)の点は、前記のとおり本願明細書第一二頁第一三行ないし第二三頁第一二行及び別紙第2図に記載されているところで十分と考えられる。また、(イ)及び(ハ)については、前記のとおり、本願発明の現実の動作、すなわち誤差修正過程として、本願明細書及び願書添付図面によつて明らかにされているといい得るから、それ以上の記載がないことをもつて、特許法第三六条第四項の規定に違反するということはできない。

(三) 被告は、「別紙第5図は、本願発明の技術的課題であるピツチ軸を軌道面法線に合致させるプロセスを示す不可欠の図面と認められる」と主張する。

別紙第5図についての詳細な判断は、後に取消事由2に関連して述べるところに譲るが、要するに、別紙第5図は、「ロール誤差あるいはヨー誤差があるときのピツチ軸のずれを示す」(本願明細書第二三頁第一三行及び第一四行)ものであり、かつ、「曲線で示される軌跡は、四つの代表的な真近点離角の各々から磁気トルク付与作用によつてロール誤差またはヨー誤差が修正されるときのピツチ軸の動きの経路を示」(同第二四頁第六行ないし第九行)すことによつて、「姿勢修正に伴つてピツチ軸は曲線61、63を辿つて軌道法線60に近づいて行く。ピツチ軸が軌道法線60に近づくにしたがつてロールとヨーの双方の誤差が完全に除かれる」(同第二四頁第一二行ないし第一五行)というのであるから、同図は、本願発明による制御動作の結果として現れる、ピツチ軸の軌道面法線に対する傾きの変化状態を例示的に説明するための図面にすぎないことが明らかであつて、被告が主張するように、ピツチ軸を軌道面法線に合致させるという制御動作のプロセスを示す不可欠の図面と解することはできない。ちなみに、右制御動作は、本願発明の一実施例の閉ループ・ロール制御方式のブロツク線図を示す別紙第2図の、運動量輪14上の一対の感知器22、24からトルク付与装置94に至る、一連の構成要素によつて行われるものであり、そのプロセスは、本願明細書第一二頁第一三行ないし第二三頁第一二行(前記1(二)(2))に記載されていることは前記のとおりである。

(四) なお、被告は、本願明細書第二五頁第九行及び第一〇行(前記1(二)(4))の「本願発明とは関係がないので説明を省略する。」との記載について、本願明細書は、右記述によつて、別紙第5図の姿勢制御プロセスにおける、ロール誤差及びヨー誤差の大きさの経時的変化の説明をも省略したことになるから、実質的には、本願発明の現実の動作についての説明を省略したことに帰すると主張する。

しかしながら、本願明細書の右記載は、それに先立つ「ロール誤差の修正過程でヨー誤差が現われ、またヨー誤差の修正(中略)の過程でロール誤差が現われるが、この理由は」との記載を受けてなされているのであるから、説明が省略されているのは人工衛星においてロール誤差とヨー誤差とが周期的に交替して現われる理由にすぎず、これによつて本願発明の現実の動作についての説明が省略されているわけでないことは明らかであつて、被告の右主張は失当である。ちなみに、軌道を周回する人工衛星のロール誤差とヨー誤差とが1/4周回ごとに正弦曲線的に相互に交替するのは、人工衛星が慣性空間に対して一定の姿勢を保つて地球を中心とする軌道を周回するためであつて、このことは、本願明細書第一二頁第一行ないし第六行に記載されているとおり、技術的に自明の事項というべきである。

(五) そうすると、原告主張の取消事由1は、理由があるといえる。

3 取消事由2について

(一) 手続上の問題

原告は、審決の理由の要点2に記載されている「仮にその直線上において第一回の計測と姿勢制御を行えば、その1/4周後の第二回に指定された位置は、制御限界の外になり、その位置において磁気トルクを発生させることはできない。」との事項は、昭和五八年一一月九日付け通知書記載の拒絶理由とは異なる新しい拒絶理由であつて、あらかじめ意見を述べる機会が与えられなかつたと主張する。

しかしながら、審決の理由の要点2に記載されている右事項は、昭和五八年一一月九日付け通知書記載の拒絶理由である「第5図に示された制御プロセスを実現する具体的諸条件が不明である」との摘示を受けて、本願発明の装置を、本願明細書第二二頁第五行ないし第一八行に例示されている「赤道面に対して84°傾斜した二〇〇海里の軌道上における人工衛星」に適用した場合に考えられる具体的な疑問点の一つを指摘したものにすぎないと認められる。

そうすると、原告は、審決の理由の要点2に記載されている事項について意見書を提出する機会を与えられなかつたということはできないから、審決には、原告主張のような手続上の問題はない。

(二) 技術上の問題

(1) 被告は、「別紙第5図に記載された四つの軌跡は、制御トルクが、出発点と転回点とにおいて瞬間的に印加されたことを意味するもののみであつて、制御トルクを連続的に印加する軌跡は開示されていない。」と主張する。

しかしながら、本願発明による人工衛星の姿勢の制御動作は、前記のとおり、本願明細書第一二頁第一三行ないし第二三頁第一二行(前記1(二)(2))及び別紙第2図に記載されているのであるが、これを要約すれば、次のとおりである。

運動量輪14上に設けられている一対の感知器22、24が、運動量輪14の回転に伴い、連続的に地球の表面の走査を行い(第一二頁第一五行ないし第一八行)、その信号出力は、電子回路系26ないし44で処理された後誤差検出器50に供給され、右誤差検出器50から、ロール誤差を表すパルス52が発生される(第一三頁第六行ないし第二〇行)。このパルス52は、その持続時間が、計数器54においてクロツクパルス数に変換され(第一五頁第七行ないし第一二行)、オーバフロー検出器58に供給されて、その値が特定限界値を越した時、すなわち一定値以上のロール誤差が検出された時に、機能組合せ論理回路59に出力パルスが供給される(第一五頁第一一行ないし第一六頁第一行)。一方、誤差感知器51は、感知器22又は24の各出力の、どちらが先行するかを示す信号を発生するが、右信号はロール誤差の向きを示すものであつて(第一六頁第九行ないし第一一行)、二本の矢印線のように機能組合せ論理回路59に供給される。さらに、人工衛星に搭載されている制御回路、例えばクロツク90又は磁力計96は、地球の磁場が受け入れ得る方向範囲内にあるかどうか、すなわち人工衛星が別紙第6図の領域74、76内にあるかどうかを決定する情報(第一八頁第一二行ないし第一四行)を、機能組合せ論理回路59に供給する(第一九頁第一三行ないし第一九行)、機能組合せ論理回路59は、右の誤差感知器51、オーバフロー検出器58、及びクロツク90又は磁力計96からの、三種の信号入力があつた時に、トルク付与装置94に対して信号電流を供給して、プラス又はマイナス方向のトルクを発生させ、人工衛星の姿勢制御を開始する(第一九頁第一九行ないし第二〇頁第一行、第二一頁第一四行ないし第二二頁第四行)。

そして、右誤差検出器50からのパルス52の発生、すなわち計測が、人工衛星の軌道運行中、連続的に行われることは、被告も認めるところである。

以上のとおり、人工衛星が別紙第6図の領域74、76の範囲内にあつて、機能組合せ論理回路59に、オーバフロー検出器58から要修正ロール誤差を表すパルス信号が供給されている限り、トルク付与装置94が連続的に修正トルクを発生して、必要な姿勢制御を続けることは明らかであるから、被告の前記主張は理由がないことが明らかである。なお、以上の説明は、極軌道人工衛星に関するものであるから、本願明細書には極軌道人工衛星等の連続的修正については全く言及がないという被告の主張は、誤解に基づくものである。

(2) 被告は、「別紙第5図に記載された四つの軌跡は、制御トルクが、出発点と転回点において瞬間的に印加されたことを意味するもののみであつて、制御トルクを連続的に印加する軌跡は開示されていない。転回がなければ、軌跡は円周上を一周してグラフの出発点に戻ることになる。本願明細書第二二頁第五行以下に例示された衛星において、転回点が制御限界の外にならないという保証は、全く存しない。」と主張する。

そこで、別紙第5図の記載を検討すると、左記のとおりである。

衛星が別紙第6図の領域74中の赤道面上に在り、ロール軸を中心として三度のロール誤差のみを有し、それが検出されていたとする。この時の衛星の位置が、第5図では<1>で示されている。衛星が軌道72を進むに従つて、三度のロール誤差は、連続的に徐々に修正されるが、同時にロール誤差とヨー誤差との間の正弦波的交替が自然に行われるから、前記の検出されている三度のロール誤差の一部は、ヨー誤差に変換される。この変換されたヨー誤差は検出されず、したがつて修正もされない。<1>を起点とする軌跡61が、<1>からまつすぐに原点60に向かわずに、原点60方向からそれて軌跡63との交点(転回点)に向かつて上方にカーブしているのは、ロール誤差のうちヨー誤差に変換された部分が修正できないことを示しているのである。もし、ロール誤差と共に、ロール誤差から変換されたヨー誤差も修正されるなら、軌跡61は右のようにカーブせず、原点60に向かう直線になる。このカーブ軌跡61は、衛星が領域74の上端(赤道面から二八度の点)に達するまで続き、衛星が領域74を離れる時(論理回路59が、クロツク90又は磁力計96によつて、不働化される時)に終る。衛星は更に進んで、北極上を通過して領域76に向かうが、領域76の始点(領域74の赤道面から一五二度の点)に至る間は、修正動作が行われないので、その間の軌跡は図示されていない。衛星が領域76に達した時点におけるロール誤差とヨー誤差の大きさは、領域74を離れた時のそれぞれの大きさと同一であるから、領域76に入つて、機能組合せ論理回路59が付勢され、修正動作が再開された時の軌跡63の始点は、軌跡61の終点と同一点(転回点)で示されることになる。衛星が領域76内を進むに従つて、前記ヨー誤差は次第にロール誤差に変換され、かつ、検出されたロール誤差は徐々に修正される結果、軌跡63は、軌跡61との交点から、下方にカーブする形で原点60の方向に向かう。領域76内の赤道面では、修正しきれなかつたロール誤差のみが残り、軌跡63はロール誤差軸線上に在る。続いて、<1>からの軌跡61と同様であるが、転回点がより低い軌跡が描かれる。

別紙第5図は、右のとおりの趣旨のものと認められるから、被告の前記主張における「転回がなければ」、すなわち領域76で修正動作が行われなければ、という仮定は、無用のものであり、そのような仮定を根拠として、「制御トルクが、出発点と転回点において瞬間的に印加されたことを意味するもののみであつて、制御トルクを連続的に印加する軌跡は開示されていない。」、及び「転回点が制御限界の外にならないという保証は、全く存しない。」と主張するのは、失当であるといわざるを得ない。

(3) また、被告は、同期的低傾度軌道における人工衛星の場合について、「ロール/ヨー平面における制御の具体的プロセスや、そのための諸条件が理解できない。」と主張する。

しかしながら、本願明細書においては、低傾度軌道の人工衛星の場合について、「弱いがしかしなお利用できる強さの地球の磁場部分を通りぬける。」(第二五頁第一八行ないし第二六頁第一行)と説明され、また、「本質的な要求は、人工衛星が感知し得る強さの地球磁場を通りぬけるに充分な高度をもつ軌道であること」(第二六頁第一行ないし第三行)と説明されている。なお、同期的低傾度軌道の人工衛星の場合については、「軌道面に直角な主磁場と作用しあう」ように「トルク付与装置の磁気ダイポールが方向付けされなければならない」(第二六頁第一四行ないし第一七行)と説明されている。

したがつて、低傾度軌道の全周を通じて、軌道面にほぼ直角な一定の地球磁界があることから、軌道全周にわたつて、別紙第6図の領域74又は76におけると同様に、修正動作を連続的に行い得ることは、当業者ならば容易に理解し得ることである。

(4) なお、被告は、前記の「別紙第5図に記載されている四つの軌跡は、制御トルクが、出発点と転回点において瞬間的に印加されたことを意味するもののみであつて、制御トルクを連続的に印加する軌跡は開示されていない。」との主張に関連して、「このことは、本願明細書における『実際には衛星が軌道を1/4周回して、ヨー誤差がロール誤差になつたときに誤差を検出し、修正する』の記載(第二五頁第六行ないし第八行)とも符合する。別紙第5図に示された四つの軌跡は、いずれも二回の瞬間的トルクの印加によるものであり、しかも、その印加すべきトルクに関する具体的説明は、本願明細書においてはなされていない。」と主張する。

しかしながら、被告の右主張は、左記のaないしdの理由によつて、失当といわざるを得ない。

a 被告は、別紙第5図の<1>ないし<4>から出発する軌跡の形状を、図形的特徴を根拠として、円弧であると解しているが、本願明細書あるいは願書添付図面には、これを円弧、すなわち幾何学的に正しい円周の一部分とする記載は認められず、右の各軌跡は、滑らかな曲線というべきである。したがつて、各軌跡が円弧であることを前提とする被告の主張は、正当といえない。

b 被告は、外部からのトルクが瞬間的に加われば、ピツチ軸は、章動(ニユーテーシヨン)により、一定の角速度でヨー誤差-ロール誤差平面で円弧上を移動することになるというが、ジヤイロスコープの学理に立脚すると、印加トルクが消滅すれば、ピツチ軸は、その新しい方向を向いたままその位置にとどまり、それ以上は移動しないものと考えられる。すなわち、トルクの瞬間的印加によつて、ピツチ軸が章動を起こし一定の角速度で別紙第5図の四つの軌跡上を移動することはあり得ない。

ただし、被告は、右の学理は章動を無視し得る場合に成立することであつて、章動が存在する現実の人工衛星の運動については、本願明細書に説明がないと主張する。しかしながら、本願明細書は、その第二四頁第四行及び第五行に記載されているように、章動が存在しないと仮定した上で説明されているのであるから、その限りでは記載不備ということはできないし、審決においては、本願明細書には章動が存在する場合の説明がない旨の指摘はなされていない。

また、仮に本願発明を実施した人工衛星が章動を発生するものであつた場合には、右章動の問題は、本願発明とは直接関係のない周知の技術(例えば章動ダンパ)によつて解決すれば足りることであるから、章動が発生する場合の動作説明が本願明細書に存しないからといつて、本願明細書において本願発明の装置の現実の動作が完全に説明されていないとすることはできない。

c 別紙第2図の閉ループ・サーボ制御回路のブロツク線図において、仮にトルク付与装置94を特定時点に瞬間的に作動させるとすれば、オーバフロー検出器58、及びクロツク90又は磁力計96のほかに、機能組合せ論理回路59の出力発生期間を規制するための装置を要するが、別紙第2図及びその説明には、そのような装置の必要性は記載されていない。

d 本願明細書及び願書添付図面には、本願発明における制御トルクが瞬間的に印加されるものであるとの趣旨のことは、一切記載されていない。なお、本願明細書第二五頁第六行ないし第八行の「実際には衛星が軌道を1/4周回して、ヨー誤差がロール誤差になつたときに誤差を検出し、修正する」との記載は、本願明細書及び願書添付図面全体の記載に徴すると、ヨー誤差の直接の検出及び修正はできないが、人工衛星の軌道周回の間、ヨー誤差とロール誤差との正弦曲線的交替現象を利用して、ヨー誤差がロール誤差に変換された時に検出及び修正し得る意味と解すべきであつて、制御トルクの印加を瞬間的に行つてロール誤差を修正する意味とは解されない。

(三) そうすると、取消事由2に係る被告の主張は、技術的にみて誤つているといわざるを得ないものであつて、原告主張の取消事由2も、理由があるといえる。

4 以上のとおりであつて、本願明細書の発明の詳細な説明は、審決が指摘する理由によつては、当業者が発明を容易に理解して実施することができる程度に記載されていないものとすることはできないから、審決の認定、判断には誤りがあるといわざるを得ない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編注1〕本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

人工衛星のピツチ軸及びスピン軸と並行に角運動量、バイアスが与えられており、その角運動量のベクトルが、前記人工衛星の軌道面に対する法線と一致するように維持されるべき、地球の周囲を軌道を描いて回る軌道周回人工衛星の姿勢制御装置であつて、

選ばれた所望の姿勢からの前記人工衛星ロール軸を中心とする姿勢のずれ、及び選ばれた所望の姿勢からの前記人工衛星のヨー軸を中心とする姿勢のずれの双方を修正することのできる自動閉ループ・サーボ制御系を有し、前記所望の姿勢においては、前記ロール軸は、前記人工衛星の軌道速度ベクトルと一致し、また、前記ヨー軸は、基準鉛直線と一致し、

前記自動閉ループ・サーボ制御系は前記選ばれた所望の姿勢からの前記ロール軸を中心とする前記人工衛星の地球に対する角度のずれを表す誤差信号を発生するロール誤差感知回路からの信号を受信し、

前記自動閉ループ・サーボ制御系は、地球磁場と相互に作用して、前記人工衛星の前記ロール軸を中心とする回転を生じさせる制御トルクを発生させる磁気ダイボールを生じさせるための磁気トルク発生器を有し、

さらに、前記人工衛星の前記ヨー軸を、前記所望の基準鉛直線に向かうようにするために、前記角ロール誤差信号のみからなる誤差信号に応答して、前記磁気トルク発生器を付勢する付勢回路を有する、前記軌道周回人工衛星の姿勢制御装置(別紙図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

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